「美食の街・スペインのバスクに行こうよ!」第2回:ビルバオ紀行編

こんにちは、料理研究家の藤沢セリカです。

第1回:旅路編 にて、日本からスペイン・バスク(サン・セバスティアン)までの移動中に起こったさまざまなハプニングをご紹介しましたが、今回はスペイン・バスクの玄関口ともいえるビルバオの素顔をお伝えします。有名な現代アートがひしめき合うグッケンハイム美術館で有名な街には、どんな魅力が潜んでいるのでしょうか。

自由気ままなアパートメント(宿)の入り方に四苦八苦

日本を出発して約15時間、パリでTGV(高速電車)へと乗り継ぎ、スペイン・バスク地方でも有数の都市「ビルバオ」に到着したのは夜の22時。空港からタクシーで20分(約25ユーロ)ほど走ると街の中心あたりに着きました。

そして今回の宿(アパートメント)の住所を伝えると、降ろされたのが交差点の角。「ここですか?」と聞くと、運転手さんが「このビルです」と指を差してくれました。でも、そもそもビル自体の入り方が分かりません。良く見てみると、アパートメントの名前が書いてあるパネルが横にあり、それがビル全体の入り口になっていました。でも、そこには鍵がかかっています。どうやって入ったら良いのでしょうか。

 昼間ならかろうじて「宿(アパートメント)」と認識できるような、普通の雑居ビルといった佇まい。

昼間ならかろうじて「宿(アパートメント)」と認識できるような、普通の雑居ビルといった佇まい。

 事前に聞いていた暗証番号を入力して、ビルの中へ入ります。

事前に聞いていた暗証番号を入力して、ビルの中へ入ります。

到着が深夜だったため、ヒヤッと少し焦りましたが大丈夫。あらかじめ聞いていた暗証番号を入力して、無事ビルの中へ。この暗証番号ですが、この後、エレベーターに乗るのも、部屋に入るのも全部違うもので、どの番号を入力したら良いか戸惑いながら、入室までに30分もかかってしまいました…まあ、ホテルじゃないから仕方ないですね。

とはいっても、私は海外ではよく、このようなアパートメントを借ります。ルームサービスはないけどホテルより部屋は広いし、キッチンもあるし、何よりも自由に放っておいてくれるのがうれしい!みなさんはホテルとアパートメント、どちら派ですか?

まずは乗り物の乗り方をマスターする

バスクの中でも最も都会なビルバオは、交通手段もタクシーのほかにバスやメトロ、トラムなど多くの選択肢があります。それを乗りこなしてこそ、行きたいところに行けて楽しむことができるというわけです。

市内を一望できる観光用のバスも、立派な交通手段の一つ。

市内を一望できる観光用のバスも、立派な交通手段の一つ。

初めて訪れる土地の場合、私はまず行きたいところを決めるため、観光用の2階建てバスに乗ることがあります。街を全体的に見てから、市内観光を効率よくスタートできるため、意外と楽しいんですよ!

私が乗車したビルバオの観光用バスは、購入した時点から24時間使えるチケットで、乗り降りが自由自在。観光名所以外に見るべきところといえば「どこにメトロの入り口があるか」「バス停はどこにあるか」など。見晴らしよく、街の様子をウォッチしながら優雅なひとときを過ごせますし、これはみなさんにオススメします。

ビルバオ散策に必須となる「交通チケット」の自動販売機。

ビルバオ散策に必須となる「交通チケット」の自動販売機。

さて、自由行動の開始はまずチケット購入から。ビルバオにはメトロやバス、トラムへと乗り換えも乗り降りも自由な「BARIK」という交通系ICカード(日本でいうとSuicaのようなもの)があります。1枚で何人でも使えるところがスゴイ!自販機で買えます。

【交通系ICカード「BARIK」チケットの買い方】

まずは「BARIK」と記載のある表示を選びます。
費用はカードを発行するのに3ユーロ、そこに好きな金額だけチャージするという仕組み。
いくらチャージするか決めたらお金を入れて・・・
「BARIK」カードが出てきました。入金が足りなくなったら自販機でチャージすればOKです。
トラムのホームにある「BARIK」用の自動改札機。

トラムのホームにある「BARIK」用の自動改札機。

「BARIK」は一度買ってしまえば、メトロでもバスでも乗車するときに改札口で「ピッ」と、かざすだけ。

私が乗車したトラムの場合は、ホームにこの機械があったので、そこで「ピッ」とかざしてスムーズに乗ることができました。2人乗る場合は「ピッ」を2回、3人なら「ピッ」と3回かざせばOK。こうしたシステムは、旅行者にうれしいですね!

トラムの正体は、色鮮やかな路面電車。

トラムの正体は、色鮮やかな路面電車。

街中を走るトラムは路面電車といったところ。バスや車と同じ道路に線路があり、とても静かに走ります。車体もなんだかオシャレなデザイン。あちこちに停留所があるので、メトロの次に使いやすい乗り物です。

「朝ピン」でオシャレに。ランチは美術館のビストロへ

朝からバルのカプチーノ。意外とおいしい!でも甘~い!

バスクの朝は遅く、日の出が8時50分頃です。9時でやっと朝の風景になります。そこでふとした疑問が。会社や学校はいったい何時からなのでしょう?朝8時に部屋を出て、バルを探してうろうろしていた時はまだ真っ暗で、ほとんど人通りもなかったですし…。

そんなことは気にせず、バスクに来て良かった!と思えることが、朝から営業しているバルに出会えること。夜と同じようにピンチョス(※)がずらりと並ぶ店もあれば、注文のみでつくってくれる店もあります。もちろんワインも飲めますが、朝は「朝ピン(朝のピンチョス)」といって、コーヒーやカプチーノと一緒にいただくのが主流です。

※ひと口サイズに切ったパンに、小さくカットした食材をのせたもの。スペインのバルではメジャーなフィンガーフードです。

時刻は朝とはいってもバルなので、定番人気の生ハムをすかさず注文。

なんていったって、ここはバルだもの。朝食だって生ハムとトルティージャ(スペインオムレツ)。これってコーヒーにも合うんだって初めて知りました。店によってはバゲット以外にクロワッサンやペイストリー系の本格的なパンもあり、トルティージャは作りたてなので半熟具合が最高でした。

アートの街を象徴する、ユニークなメニュー立てバル。

アートの街を象徴する、ユニークなメニュー立てバル。

ビルバオに住んでいる知り合いから「ここは行った方がいいよ」とすすめられたのがグッケンハイム美術館に併設されているビストロ。前日に予約をしてランチに向かいました。 案内されたのは川が見渡せる明るい席で、テーブルの上には「しめ縄?」のようなオブジェが…と思ったら、なんとメニュー立てだったんです!

雑穀系のバゲットとフムス。前菜とは思えない美味しさでした。

ランチは前菜とスターター、メイン、デザートが選べて20ユーロとお安い。せっかくなので「CAVA(カヴァ:スペインのスパークリングワイン)」で乾杯。こちらもボトルで10€と激安。とにかくワインやお料理が安い!スペインってなんてステキな国なんでしょう!

前菜は、雑穀系のバゲットとフムス。このフムスの塩加減がよく、かかっているオリーブオイルが、料理研究家をうならせる美味しさです。

魚介類をふんだんに使ったビルバオ名物の「魚のスープ」。

私がチョイスしたスターターはビルバオ名物の魚のスープ。思ったより具材も多く、すごく濃厚で美味しい。このスープにはいったいどれだけの魚が入っているのでしょうか。

さっぱりと風味に仕上げた「イベリコ豚のミートボール」。

さっぱりと風味に仕上げた「イベリコ豚のミートボール」。

メインはイベリコ豚のミートボール。マッシュポテトのベッドにミートボールが鎮座して、グレービーソースのようなサッパリした味のソースがたっぷり。これだけでもかなりお腹いっぱいです。

スイーツ好きにはたまらないランチの締めくくり。

締めのデザートは「チーズケーキとヘーゼルナッツのアイス」。スイーツ好きにはたまらいと思いますが、大人の私にはちょっと甘過ぎた…かな。

なぜ噂にならない?不思議体験ができるグッケンハイム美術館

モダンアートランチの締めくくり。

モダンアートランチの締めくくり。

ビルバオの顔ともいえる「グッケンハイム美術館」の魅力といえば、モダンアートを中心に展示されているところ。外から見た建物もかなり変わっていて、街の中心あたりからも見えます。隣のビストロに来たついで?に美術館も見学しました。

入ってすぐ「1」と書かれてある部屋に、他の入場者たちも向かったので私もついて行きました。入口に入りかかると、あれ?暗い…中に入ったらなんと真っ暗!そして奥の方にぼや~っと浮かぶ埴輪(はにわ)みたいな土蔵が…。それが浮かんだり消えたりして、あまりの暗さに隣の人も見えないし、何も見えない!これは肝試しルームかっ…

迷路なような独特なモニュメント。

迷路なような独特なモニュメント。

すり足で人にぶつかりながらやっと脱出。次の部屋に行こうと階段へ向かったら、横の壁が電光掲示板のようになっていて、文字が上から下へ、下から上へ、流れるように動いているような?ちょっとした錯覚を起こす奇妙な壁。

お次は迷路?なかなか出られませんでした。階段もらせん状になっていたり、小さなアップダウンがあったりと、自分が何階にいるのか分からなくなる感じ。

そのうち並行感覚もおかしくなってきて…私は気持ち悪くなってしまったので、何を見たかなんてサッパリ思い出せないまま、全ては見ずに美術館を出ました。

グッケンハイム美術館といえば、お馴染みの大きなクモのオブジェ。

グッケンハイム美術館といえば、お馴染みの大きなクモのオブジェ。

出たところにはお馴染みの大きなクモのオブジェ「ママン」。入り口では、大きな花の犬のオブジェ「パピー」がお出迎えしてくれて、帰りはクモがお見送りですね。なんとも奇妙な体験ができて、現代アートも溢れています。ぜひとも噂にしたい、魅惑の美術館でした。

ビルバオ在住者おすすめ!一番美味しいバルへ

ビルバオ最後の夜。こちらで暮らす友人の、ぜひ行ってほしいお店ランキング1位は「GURE-TOKI(グレトキ)」ということで、このバルだけを目指しました。

メトロ駅の近くある、噂の有名バル「GURE-TOKI(グレトキ)」。

メトロ駅の近くある、噂の有名バル「GURE-TOKI(グレトキ)」。

そこは、ビルバオの中心地からバル街のある旧市街地までメトロで10分ほど。お店はメトロの駅の近くにありました。噂通りに人気店!でもさすがバル街ですね。皆さん、外の広場にあるベンチやテーブルで飲んでいるので、店内は意外と空いていました。

基本、バルは立ち飲みするところですので、店内はカウンターのみ。カウンターの上には、美味しそうなピンチョスがズラリと並んでいます。

まずはワインを注文します。これだけはマスターしたスペイン語でオーダー!ワインが来たらピンチョスを指さししながら注文。冷たいものはそのまま、温かい食べ物は温めて出してくれます。

見るだけでもうっとりする、有名バルのピンチョス。

見るだけでもうっとりする、有名バルのピンチョス。

その出で立ちに一目惚れしたマンゴーとチーズのピンチョス。クセのある山羊の白カビチーズとフレッシュなマンゴーの爽やかな組み合わせで、美味しい!

程よい酸味でジューシーな「チョコレート・トマト」のサラダ。

程よい酸味でジューシーな「チョコレート・トマト」のサラダ。

どうしても野菜が食べたかったので、トマトのサラダを注文。この黒っぽいトマトは「チョコレート・トマト」という名前で、皮も実もしっかりしていて酸味も程よくジューシー。ブッラータチーズをトッピングしました。

ビルバオの夜を優雅に満喫し、明日はいよいよサン・セバスティアンへ出発です!

やって来ました!美食の街、サン・セバスティアン

ビルバオから高速バスで約1時間。サン・セバスティアンの大きい方の駅に、ついに到着しました。タクシーに乗り、今回の宿であるアパートメントへ。サン・セバスティアンでの目的はすばり「バル巡り」なので、毎回バル街の中心に泊まります。

今回の宿は、あのバスクチーズケーキで有名なラヴィーニャの斜め前。飲みの〆はチーズケーキに決まりですね!毎度のことですが、サン・セバスティアンで思うこと…。バル街の宿にはエレベーターなんてステキなものはありません。なぜかというと、古い建物ばかりだから後付けできないらしいのです。前回は4階までスーツケースを持って上がり下りしましたが、今回は2階でラッキー!でも、この階段、やはりつらいです。

サーファーでにぎわう街としても有名な、サン・セバスチャンの港。

サーファーで賑わう街としても有名な、サン・セバスティアンの港。

部屋で一休みしたら、まずは海へ。サン・セバスティアンは海辺の街。カンタブリア海に面し、白くて長いビーチと小さな港があります。ここはサーフィンのポイントがあることでも有名な街で、オンシーズンにはサーファーで賑わうそう。

バル街を通り抜けた先には、見晴らしの良い海が待っています。

バル街を通り抜けた先には、見晴らしの良い海が待っています。

バルがひしめく路地を抜けると、そこには海があります。酔っぱらったら海を見ながら一休みできるのも、ここでの飲みのスタイルですね。

水はけの良い、バル街の道。

水はけの良い、バル街の道。

バスク地方は雨が多く、年間でいうと3ヶ月くらいしか晴れ間がないそうです。そのためか、バル街の道は中央にほんの少し傾斜していて所々に水が地下に落ちるようになっています。雨が降っても水たまりができないように、水はけが良くできています。だから雨の日でも気持ち良く飲むことができるんです。

開放感あるサン・セバスチャンのバル。

開放感あるサン・セバスチャンのバル。

ほとんどのバルのドアはオープンで、中が見えるようになっています。カウンターに並ぶピンチョスを見て、食べたいものがあればふらりと入る、という適当な感じが楽しいですね。

美味しいバルの見分け方と楽しみ方のルール

サン・セバスティアンのバル街には、150軒ものバルがひしめき合っています。この中でどこの店を選ぶかがかなり難しい!どの店も自慢の料理と美味しいワインを出しています。

ちなみにほとんどのバルではワインなどの銘柄を選ぶことはなく、色のみで注文します。 赤、白、チャコリ(バスクでつくられている微発泡の白ワイン)、シードル(いわゆる果実酒で発泡性のものもある)などです。でも、どこで何を飲んでも美味しい!それだけ全てが自信作だから、どこでも安心して飲めます。

多くの人でにぎわう、サン・セバスチャンのバル街。

多くの人で賑わう、サン・セバスティアンのバル街。

さて本題ですが、どうやって美味しい店を見分ければ良いでしょう?まずは「店に人が多いこと」。これは当たり前ですよね。でも、それだけで本当に美味しいかどうかは分かりません。どうやって見極めるかというと、まずは「お店の床をチェック」すること。

カウンターの上にピンチョスが並ぶバルは、基本的に立ち飲みスタイル。カウンター越しにお酒や料理を注文するため、椅子はありません。すぐさま、足下を見てみましょう。

紙ナプキンや串が散らばった「おいしかったよ!」の合図。

床にたくさんの丸まった紙ナプキンや串が落ちていたら、それが本当においしい証拠!一見ゴミだらけで汚く見えるのですが、これがバスクの礼儀。ゴミを足下に捨てるのが「おいしかったよ!」の合図なのです。

これを基本に「行きたい店リスト」を制作し、上手にスケジュールを組みましょう。なるべく多くのバルを巡りたいけど、期間にもよりますが、滞在中に行けるバルは10数軒くらいが限度ですもんね。

「1軒で1ピン&1ワイン」を決まり文句に、バル巡りは「テンポよく」が正解です。

「1軒で1ピン&1ワイン」を決まり文句に、バル巡りは「テンポよく」が正解です。

お目当てバルを定めたら、実際に巡ってみましょう。ここでもう一つ、守りたいルールがあります。何かというと「バルは巡るもの」なので、1軒に長居してはいけません。「1軒で1ピン&1ワイン」をお決まり文句に、美味しいからといって、お代わりは禁物です。

さて、次回「美食の街・スペインのバスクに行こうよ!第3回目」は、いよいよサン・セバスティアンの「バル巡り」です。美味しいものをたくさん紹介しますね。お楽しみに!

【バスク旅行記】
『“美食の街・スペインのバスクに行こうよ!”第1回:旅路編
『“美食の街・スペインのバスクに行こうよ!”第3回:バル巡り編(サン・セバスティアン)
『“美食の街・スペインのバスクに行こうよ!”第4回:爆走バスで行くゲタリア・美術館編
『“美食の街・スペインのバスクに行こうよ!”第5回:ゲタリア・世界一のアンチョビとレストラン編
『“美食の街・スペインのバスクに行こうよ!”第6回:シドレリアの“チョッツ!”チャレンジ編

この記事を書いたライター

Cooking Expert/Author

1961年2月4日生まれ、水瓶座O型。料理研究家。ハワイ、バリ、タヒチなどのアイランド料理研究家でもある。TV、ラジオなどメディアでの情報発信、ケータリングなど、食に関して幅広く活躍中。著書に『ハワイごはん』『湘南ごはん』『海ごはん』『ホノルル食堂』など。オフィシャルホームページ「ALOHA DELI

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