こんにちは、料理研究家の藤沢セリカです。

第2回:ビルバオ編では、スペイン・バスクの玄関口ともいえる街の素顔をお伝えしましたが、第3回目の今回はいよいよ本題!私が大好きなサン・セバスティアンの全てをお伝えします。楽しさは美味しいバルだけではない、出会った人の優しさと温かみ溢れる街の真実に迫ります 。

口に出して言える「幸せ」が宿る街、サン・セバスティアン

「幸せだから~」が口癖になる、絶対的好感度の高い街「サン・セバスティアン」。

「サン・セバスティアンってどんなところ? 何がそんなにいいの?」と、よく聞かれます。そんなときはとりあえず「そこにいると、すっごく幸せだから」と言います。

でも私にとって特別な場所は、サン・セバスティアンだけではありません。生まれ故郷の東京・下町、青春時代を過ごし今も暮らす湘南、第二の故郷ともいえるハワイ。そして行くたびにインスピレーションを与えてくれるニューヨークや、命の尊さを教えてくれるアフリカなど…。

各地を旅して思うこと、それはその土地の人々がどれだけ幸せに暮らしているか、ということ。もちろん「幸せ」とは、人によって感じ方も基準も違いますが、サン・セバスティアンでは、出会う人のほとんどが「幸せだから~」と口ぐちに言います。

そんな場所ってありますか?「私は幸せ」って口に出していえるほどの幸せってどんなものでしょう。初めてサン・セバスティアンに行ったときは、そう思っていました。でも、2回目に行ったときにはっきり分かったのです。その理由を、これから紹介いたします。

宿泊は立地の良い旧市街を。バル街がオススメです!

こじんまりとしてバル巡りがしやすい旧市街。

バルが集まる旧市街は、1時間もうろうろすれば見て回れるほどの広さ。街の中心には憲法広場があり、時には祭事などのメイン会場となりますが、普段はバル飲み会場としてにぎわっています。

前回、ご紹介したビルバオに比べ、サン・セバスティアンはこじんまりとしてバル巡りがしやすく、私は大好きです。道幅は4人並んで歩けるくらいで、両側のバルの様子を同時に見ることができる距離。飲みをはじめる前に、街全体を見て回るといいでしょう。

3ベッドルームの快適な空間。改築したばかりの宿でゆったり。

バル巡りをする前に、今回の宿は3ベッドルームのアパートメント。バル街にある古い教会の隣で公園の前。そしてあのチーズケーキで有名なラ・ヴィーニャの斜め前です。古い建物ですが、リフォームされていて広くて快適で、リビングやダイニングスペースもゆったり。最大8名まで泊まれるそうです。

キッチンも広々。お土産もストックできてとっても便利。

キッチンも広く、なにより大きい冷蔵庫がうれしい!とりわけチーズが安いので、自分のお土産用にたくさん買ってストックしました。

寝室までとっても広いのに、3人で割ればリーズナブル。

ダブルベッドに広いクローゼット、オイルヒーターも設置。バスルーム&トイレも二つあり、7日間で約13万円。3人で割ると…激安です!

美味しいものがあり過ぎる!バル天国へようこそ

いよいよバル巡りスタートです。前回紹介した「美味しい店の見分け方」のルールに沿って、行きたいバルのリストと時間割を制作。大体のバルは夕方5時~午後11時までなので、より多くのバルをはしごするには、このスケジュールづくりが大切なのです。

鉄則は「美味しいからといっておかわりは禁物」。

そしてスムーズにはしごをするには、1軒のバルで1ピンチョスと一杯のワインのみが鉄則。美味しいからといっておかわりしていたら何軒も回れません。もし、どうしてもその店が気に入ったら、また帰ってくれば良いのです。

ワインを高いところから注ぐ、バスクならではの「エスカンシア」。

まずはバル巡り1軒目、チャコリからスタートします。チャコリとはバスクでつくられているお酒で、微発泡の白ワインです。チャコリを注文すると、お店の人が目の前でボトルを持ち上げ、高いところからバシャバシャと水しぶきを上げてグラスに注ぎます。その「エスカンシア」というパフォーマンスがバスクを象徴するもので、見ているだけでテンション上がりまくり!微発泡なので、そんなに泡立てたら発泡しないでしょーと思いきや、ちょうど良い飲み心地。お店の人たちも写真馴れしていて、注ぐときに「フォト!」と言い、写真を撮れと催促します。

一杯目を注文したときから、お店の人とコミュニケ―ションが取れるなんで最高!皆さん、とてもフレンドリーで、私の馴れないスペイン語の注文も理解しようと一生懸命聞いてくれます。そして、二度目に行ったときには覚えていてくれるのです。

初対面で、言葉は通じなくてもすぐに知り合いになれる街。サン・セバスティアンはそんなところです。

リーズナブルでフレンドリー。夜出歩いても安全な「バルの街」

酔っぱらいに絡まれたりすることなく、治安も良好でした。

そして肝心な治安ですが、「サン・セバスティアンには銃を持った人はいないから、夜遅く歩いていても何も心配することはない。それでも何かあったら(酔っ払いに絡まれたりなどしたら)近くのバルに入れば助けてくれる」と、初めて行ったときに宿泊先のフロントに言われました。確かに、街は飲み屋ばかりなのに泥酔している人もいなく、ケンカも見たことがありません。

半分は海外からの観光客ですが、まずアメリカ人、アジア人とはほぼ合いません。たまに日本人に会うくらい。ほとんどがヨーロッパの人たちで、大人ばかりです。サン・セバスティアンはもともとヨーロッパの避暑地なので、観光客は富裕層が大半を占めているそうです。

名前をすぐに覚えてくれるほど、気さくで話しやすいバルの店員さん。

どのお店の人からも、「名前は?」と聞かれます。「セリカ」と言ってもなかなか通じないので、紙とペンを差し出され、そこにCELICAと書くとなにやら分からないリアクション。そしてすぐに覚えてくれて、街中でばったり会っても「CELICA〜!」と呼び止められました。

そう、私の名前CELICAはスペイン語で、天国のような、という意味なのです。うーん、ここに来る運命だったのでしょうか…。

秋ならではの味覚「生のボルチーニ茸」が山積みされたカウンター。

日本でも秋は美味しい食材が豊富ですが、バスクも秋ならではの素晴らしい食材があります。それは生のポルチーニ茸。日本では乾物でしかお目にかかれない、あの独特な芳香を放つ「きのこの王様」です!バルのカウンターに山積みにされて、私の注文を待っています。

シンプルな味付けで、3回もリピートした「ボルチーニ茸のブランチャ」。

この季節のバスク名物は「ポルチーニ茸のプランチャ」です。新鮮なポルチーニ茸をコンフィして、鉄板でこんがり焼き、卵黄を落とす。味付けは塩のみのシンプルで、最高に香り高い逸品。バルのメニューにしては少々お高いですが、食べる価値アリ!私は秋に滞在中、3回も食べました。これがチャコリにすっごく合うんです。

ちなみにバルの平均価格はワイン、ピンチョスともに1~3ユーロ(約120円~360円)。ちょっと高いもので5ユーロ程度に対し、ポルチーニ茸のプランチャは25ユーロ(約3000円)と、かなりの高額ですがここでしか食べられないものです。

美味しいものがあり過ぎる!バル天国へようこそ

まだまだ美味しいものはたくさんあります。それを一挙公開!

揚げたてサクサクの衣で、ビールと相性抜群のエビのフリット。

エビのフリットは、注文して揚げたてをいただきます。塩の効いたサクサクの衣にプリプリのエビ。これはビールが飲みたくなる一品でした。

レストランの高級食材も、バルなら良心的なお手頃価格。

バルでは、レストランなどで食べると高額な高級食材も、お手軽な価格で食べることができます。たとえば牛肉の赤ワイン煮やフォアグラ。その二つがセットになったこの一皿はなんと5ユーロ(約600円程度)!

美しい盛り付けに見ているだけでも幸せな「牛肉のカルパッチョ」。

私のお気に入りバル「サスピ」の看板メニュー「牛肉のカルパッチョ」は、サン・セバスティアンに行くたびに2回は食べます。まるで牛の生ハムのような食感と、美しい盛り付けに首ったけです。

食通も納得できるバルのカウンターには、本物の生ハムの足がずらり。

どのバルにも生ハムはありますが「カウンターの上にずらりとぶら下がった、生ハムの足が並ぶところが美味しい」と聞いています。

ほろ酔いでも口にした瞬間「本物だな」と分かる味に舌鼓。

切り立ては心がうなるほど、本当に美味しい!「これが本物の生ハムなんだな」と実感する味です。

バスクの血を受け継いだ、妥協なしの「純粋な美味しさ」。

三ツ星レストラン顔負けのバルを4軒も構える、敏腕経営者のモハさん。

サン・セバスティアンに行くたび、何度も通って仲良くなったモハさん。彼はサン・セバスティアンのバル街に3軒のバルを経営。さらに、もっとちゃんとした料理を出す店をつくりたいと4軒目をオープン。伝統のバスク料理からピンチョス、創作料理まで、三ツ星レストランに負けない驚きの美味しさです。

その日に採れた海の幸だから、新鮮な香りが漂うマテガイ。

モハさんのお店に行くと、何も言わなくても、いつもその日に美味しいものを出してくれます。その優しさと友情並みの心遣いに感激!写真はすぐ近くのビーチで採れたマテガイです。海の香りがして、柔らかくて最高に美味しかった!

バスクの民族意識を象徴した、現地では有名なシャンパン。

AYALAというシャンパンはバスク人の末裔が作っているもの。ビルバオのサッカーチーム「アスレティック・ビルバオ」(通称:バスク純潔主義)のオフィシャルなシャンパンとして使われているそうです。

一口大サイズで愛らしいピンチョス。

ピンチョスといえば串に刺さったおつまみ。こんな可愛らしいものまであります。

豪華な海の恵み・ウニだって、サン・セバスティアンのバルなら最高にお得!

バスクに来れば、ウニの魚介類まで豊富。このピンチョスはウニのグラタンで、1個当たり2ユーロ(約240円)!信じられないくらい安いでしょー。

お酒と一緒でも、お菓子感覚でクセになるミニソーセージ。

これはミニソーセージ。サラミみたいな味で、スナック感覚であっという間に食べられちゃいます。

鉄則は「美味しいからといっておかわりは禁物」。

私のお気に入りタパスの一つ。バスクでは「ピミエント」という名前のピーマンで、ピカソの代表作で知られる街・ゲルニカで採れるものだそうです。ただ素揚げして、フラワーソルト(海の塩でフワフワしているもの)を振っただけ…なんですが、超美味しい!日本で実際に食べたいと思ったとき、私はしし唐で再現しました。

どのバルにいっても陽気に出迎えてくれる、愛らしい店員さん

言葉が分からなくても、上手に注文できなくても、どのお店の人たちも優しく歓迎してくれます。しかもみんな「写真撮ってー!」って言います。人目を気にせず、出たがりなところがとってもチャーミングですね。

高級レストラン級の一皿も、バル街なら何皿でも楽しめる!

ハリウッド女優から命名した、ピンチョスの始まり「ヒルダ」

バスクでバル巡りをしているうちに、ピンチョスの原点「ヒルダ」に出会いました。ギンディージャという青唐辛子の酢漬けとグリーンオリーブ、アンチョビなどを串に刺したもの。ヒルダとは女優のリタ・ヘイワーズの代表作、昔のハリウッド映画「ヒルダ」から命名したそう。

青唐辛子の酢漬けがベースのヒルダは、どれも爽やかな味わい。

ヒルダも色々あり、ハムやツナ、ピクルスを刺したものもあります。酸っぱくてサッパリしているので、お口直しにもピッタリ。

食べやすい大きさで、意外にも満足感ある塩タラのサンドイッチ。

「バカラオ」(塩タラ)と呼ばれる小さなサンドイッチですが、意外とお腹いっぱいになるので、パンものは注意です。

定番メニュー「イカのフリット」も、心地よい食感で病みつきの美味しさ。

バルでも人気のおつまみ「カラマリ」はイカのフリット。サクサク美味しくて止まらなくなるのでこれも注意!

ついもう一皿食べたくなる破格のフォアグラは、バルならではの魅力。

フォアグラのソテーも、なんと3ユーロ(約360円)!バルだとその安さにどんぶり一杯食べたくなります。

偶然隣の人に勧められたホタテのソテーは、酔っていても感激する美味しさ。

超ベロベロに酔っぱらって行ったバルで食べたホタテのソテーは、隣で飲んでいた(もちろん立ち飲みですが)ビジネスマンに薦められた一品。このピンチョスも、驚くほどにレストラン級のお味で、ガーリックの効いたオイルと、スイートコーンの甘いソースがベストマッチ。これは私が感動した、極上の一皿です!

ピンチョスという名の通り、アンチョビもつまみながら楽しむのがバルの流儀。

バル街にはアンチョビの専門店もあります。ちょっと塩っ辛いけど、少しずつかじりながらワインを飲む、そんなスタイルでしょうか。

マイペースが大正解!新しい美味しさに出会えるバル巡り

回りやすいバル街だから、気付いたら飲み過ぎるくらい楽しさ満載。

1軒で1ワインですが、5軒も回ればすでにワインのボトル一本は飲んでいる計算。そりゃ、もう酔っ払いですよね。ならば飲みの〆はやっぱり炭水化物?

弱った体に染み渡る「あさりのリゾット」は、いつでも優しい味わい。

バスク名物「あさりのリゾット」は、どんなに酔っぱらっていてもスルッと食べられる胃にやさしい一品。注文してから30分はかかるので、その間またワインに手を差し伸べて…なんてしているうちに、いうまでもなく酔っ払いの夜食になりました。

何軒バル巡りをしても、やっぱり恋しくなるバスクのチーズケーキ。

しかーし!本当の〆は「やっぱりデザート」ということで、帰宅前に(宿の斜め前)チーズケーキをいただきます。ここでもコーヒーではなく、バル巡りをするならやっぱり赤ワインがよく合います。「ここからなら、這ってでも帰れますから」という言い訳をもとに、やっぱりもう一杯。もちろん、この先は記憶なんてありません…。

スイーツだって盛りだくさん。美味しさに真摯な食文化

バスクはスペインとフランスをまたがるようにある地域。バル文化はスペインですが、フランスにはスイーツがあります。サン・セバスティアンはその両方の良さを合体させた街で、バルがひしめき合うバル街にもスイーツ店がたくさんあります。

カワイイひと口サイズもあって休憩に最適なバル街のジェラート屋さん。

その中でもとりわけ多いのがジェラート屋さん。バル街の中だけでも4軒、アイスキャンディー専門店は2軒もあります。バルをはしごしながらちょっと休憩するにはピッタリで、ジェラート屋さんに足を運んでみたところ、レギュラーサイズはもちろんミニサイズまであり、フレーバーも豊富。店前にはおっさんたちがジェラートをほおばりながら、おしゃべりしている光景は日常茶飯事です。

スイーツ好きの心をくすぐる、ミニサイズのエクレア。

かわいい一口サイズといえば、エクレアやケーキ類もミニサイズがあります。これならいろいろな種類を食べることができるので、スイーツ女子にはうれしいですね!

スイーツ本格派もつい夢中に!バスクらしさあふれる伝統菓子。

一方、バスク地方の伝統菓子「ガトーバスク」(写真右)はミニサイズから直径30cmくらいの大きいものまであります。外側はバター風味たっぷりの、ソフトタイプのクッキー生地で、中にはカスタードクリームやフルーツのコンフィチュールが入っています。

私はカスタード入りが一番のお気に入り。美味しくつくれるように研究したので今度、レシピを紹介しますね!ちなみに赤・白・緑のデコレーションは、バスクの旗です。

お酒が苦手な人は、スイーツだけでも楽しめる!新食感の「アップルカスタードパイ」。

バルのスイーツには本格的なものも多く、スイーツだけを食べに来る人も多いとか。これは三ツ星レストラン顔負けのバルを経営する、モハさんのお店でいただいたアップルカスタードパイです。添えられたアイスクリームの下にはクランチが敷いてあり、今まで出会ったことのない新食感!

食べ進めるとコーヒーと一緒がちょうどいいくらいの味わいなので、バルに備わっているエスプレッソマシーンの利用がオススメ。いつでも美味しいコーヒーを嗜むことができるのはとってもうれしいですよね。

まだまだあるバル巡りだけではない、サン・セバスティアンの魅力。

前回の旅行記でも書きましたが、バスク地方は雨の多い地域。年間を通して3ヶ月分しか晴れの日がないのです。だから太陽が顔を出したときは貴重な光合成タイム!バスクの人々は水着でビーチに寝転んだり、泳いだりして思い思いに恵まれた天候を満喫しています。普段は人気の少ない冬のビーチでも、日が出た瞬間、あっという間に日光浴をする人たちでたちまちにぎやかに。

一足伸ばせば、心休まる自然も人気の観光名所。

実際、街から車で15分も走ったところにはリンゴ畑やブドウ畑のある山があり、目の前には美しいカンタブリア海が広がっています。サン・セバスティアンは飲んで食べるバル街だけが魅力ではなく、海や山で自然に触れ合ったりショッピングだって楽しめる、至れり尽くせりの観光名所なのです。

「ベレー帽発祥の地」の名に恥じない高級感。バル街のベレー帽は必見です。

ところで皆さんお馴染みのベレー帽は、バスクが発祥なのはもうご存知でしたでしょうか?バル街にあるベレー帽発祥のお店は、重厚なドアとノスタルジックな店内で、どの帽子を見ても高級そうなイメージ。ですが、このベレー帽はウール素材でなんと17ユーロ(約2040円)!私は行くたびに購入し、もう6色くらい持っています。

24時間ひっきりなしに太鼓を叩く「サン・セバスティアンの日」。

心ときめく感動イベントに出会えるのも、サン・セバスティアンを何回も訪れたくなる理由の一つ。1月20日は「サン・セバスティアンの日」(別名・タンボラータ)と呼ばれるお祭りが開かれ、なんと24時間太鼓を叩くのです。19日の午前0時に憲法広場で開会式があり、そこからスタートして太鼓を叩きながら街を行進。なんと200組以上の参加者がいて、近くで聞くとすごい迫力!それぞれコックや水汲み女、ナポレオン軍兵士のコスプレをします。

私の友人もこの日のためにグループ練習を重ねていたそうですが、実際のところ飲みで始まって、少し太鼓を叩いては飲んでの繰り返し。全然練習にならなくても許されるくらいのマイペース加減もバル街らしく、本当にいいところですよね。

街一丸の大祝祭だから、小さな子どもだってはしゃぎます。

街のあちこちの練習を見物していると、こんなに可愛いコックさんをたまたま見つけました。太鼓を叩いて歩く軽快な様子に、思わず写真をパチリ。雨が降っていたってへっちゃらな様子が伝わってきますよね。

ケーキのデコレーションにまで、毎年受け継がれるサン・セバスティアンの歴史。

美食の街の名の通り、お祭りの数日前から太鼓を型ちどったケーキが売られています。ケーキに立っている白地に青の旗がサン・セバスティアンの旗です。このケーキは昔、サン・セバスティアンがナポレオン軍に侵略されていたころ、旧市街地(今でいうバル街)に水を汲みに来ていたコックたちが、軍人の行進を真似していたものを再現しているそうです。

「サン・セバスティアンの日」は街全体が結束して、みんなで太鼓を叩く大祝祭の日。 1月20日にこの街を訪れた際、バルは半分以上閉まっているけれど、市民の熱い想いに感激させられます。1年に一度の重大なお祭りだから、フレンドリーなバスクの人たちと一緒に精一杯盛り上がりましょう。

バルが物語る街の本性は「信頼が人と人を結ぶ」という真実。

つい飲み歩き過ぎるくらい陽気なバルでのお会計は、なんと自己申告制!込み合ったバルではキャッシュオンにすることもありますが、ほとんどのバルが後会計なのは正直驚かされる体験です。

何店もバルではしご酒をしたところ、お会計の際は、まずお店の人と目と目が合ったらペンを滑らせるようなジェスチャーをします。そうすると金額が書いてあるレシートをくれるので、お金を渡します。店によっては注文時に名前を聞かれ、お会計をお願いすると名前を呼ばれる、なんてことも。

後々よく考え直してみたら、この会計スタイルならいくらでも嘘をつくことが可能。でも、お客様を信用しているから、ずっとこのままなのでしょう。素晴らしいと思いませんか?きっとごまかす人なんていないのでしょうね。

サン・セバスティアンが伝える本当の幸せは、とにかくバルに足を延ばせば誰しも発見できます。

サン・セバスティアンで暮らす友人が言っていましたが「バルで飲んでてもほとんどお金を払ったことないの。誰かが払ってくれてるから」と。そしていつも彼女は「太っちゃってもいいの、幸せだから」と言います。私がサン・セバスティアンにいて幸せを感じるのは、本当に幸せな人たちがつくり出した街だから、なのかもしれませんね。

さて、続く第4回目は爆走バスで直撃した、小さな港町ゲタリアでの星付きレストラン。そして謎の呼び声「チョッツ!とは?」をご紹介します。次回もお楽しみに!

※1ユーロ=117円換算(2020年4月現在:オンライン通貨コンバータ調べ)。ただし本記事内では1ユーロ=約120円換算で記載しています。

【これまでのバスク旅行記】
『“美食の街・スペインのバスクに行こうよ!”第1回:旅路編
『“美食の街・スペインのバスクに行こうよ!”第2回:ビルバオ紀行編
『“美食の街・スペインのバスクに行こうよ!”第4回:爆走バスで行くゲタリア・美術館編
『“美食の街・スペインのバスクに行こうよ!”第5回:ゲタリア・世界一のアンチョビとレストラン編
『“美食の街・スペインのバスクに行こうよ!”第6回:シドレリアの“チョッツ!”チャレンジ編

この記事を書いたライター

Cooking Expert/Author

1961年2月4日生まれ、水瓶座O型。料理研究家。ハワイ、バリ、タヒチなどのアイランド料理研究家でもある。TV、ラジオなどメディアでの情報発信、ケータリングなど、食に関して幅広く活躍中。著書に『ハワイごはん』『湘南ごはん』『海ごはん』『ホノルル食堂』など。オフィシャルホームページ「ALOHA DELI

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