「汗」の驚異的パワー!うるつや肌にも一役
暦の上では「秋」とはいえ残暑も厳しく、外を歩けばすぐに汗ばんでくるこの頃。スポーツやサウナでかく汗はともかく、日常の大半のシーンで汗は嫌われものです。「不快」「臭う」「メイクが崩れる」など理由はさまざまですが、汗は私たちが生きていく上で欠くことのできない大切な役割を担っています。知れば、ありがたい生理現象「汗」について、じっくりおさらいしてみましょう。
目次
・ヒトは進化の過程で、汗がかけるようになった
・最も重要な仕事「体温調節」
・2つの汗腺からつくられる汗
・臭わない汗
・濾過が間に合わない、大量の汗
・使えば高まる!汗腺の能力
・天然の保湿液
・制汗剤で汗を抑えることへの影響は?
・汗と上手にお付き合い
ヒトは進化の過程で、汗がかけるようになった
残暑の日本列島。毎日、汗との戦いの日々ですが、動物はどうでしょう?炎天下の下でも、人間のように滝汗をかいている動物はほぼいません。実際、暑さや運動で全身に汗をかくのは、ヒトとウマくらいといわれています。
なぜ私たちの体は、全身を毛で覆われているライオンやクマを差し置いて、汗をかくのでしょうか。それはサルからヒトへの進化の過程にあったとされています。
600年前、人類はチンパンジーと系統が分かれ、森を出てサバンナで生きるようになりました。それによって起こったといわれているのが大脳化と長脚化。石器を作ったり、走り回って狩りをしたり。脳を使い、体も大いに使う生活へと変化を遂げたのです。
運動量が増えれば、体温は上がります。しかし、上がったままでは脳も体の組織も持ちません。そこで効率的に体の外に熱を逃す “発汗”という仕組みが発達していったとされています。激しいスポーツができるのも、汗のおかげです。肉球にしか汗腺がなく、体で汗がかけない犬は、どんなに健康でも真夏の炎天下では15分も走れません。
最も重要な仕事「体温調節」
人間の皮膚温は34〜36℃、脳や臓器の機能を守るために保たれる深部体温は37℃前後です。深部体温は上がり過ぎると、生命にも危険が及んできます。熱をうまく体外に逃がさなければならないのです。そのため、私たちの体には発汗機能が備わっているのです。
猛暑日が続いても、80℃のサウナに入っても体温が保てるのは、汗のおかげ。汗が皮膚の上で蒸発するときに気化熱を放出するので、上がり過ぎずにいられるのです。汗は打ち水のようなもの。暑い夏の日、地面に水をまくと水分が蒸発するときに地熱が奪われて涼しくなるのと一緒です。
2つの汗腺からつくられる汗
汗は皮膚にある「汗腺」でつくられます。汗腺は2種類あって、ひとつが「エクリン腺」。ヒトの汗腺はほとんどがこのエクリン腺で、全身の皮膚に広く分布しています。数は300万個くらい。そのうち、能動汗腺(活動している汗腺)は230万個くらいといわれています。能動汗腺が少ないとバテやすく、熱中症や自律神経失調症になりやすくなります。幼児のエクリン線も2歳半までには、この数に達するそうです。
もうひとつは「アポクリン腺」と呼ばれる汗腺です。哺乳類の芳香腺が退化したもので、ワキの下や乳輪、おへそのまわり、外陰部などに存在しています。プレッシャーや緊張など主に精神的な刺激で発汗する汗腺のため、体温調節の役目はありません。「手に汗握る」という言葉がありますが、その状態の汗はアポクリン腺からです。水分に脂質やタンパク質が加わっているため、乳白色または黄色っぽく見えることがあり、ベタつきがあるのもアポクリン腺汗の特徴です。
臭わない汗
「汗臭い」という言葉がありますが、基本的に汗そのものは無臭です。特にエクリン腺から出る汗は99%が水。ニオイの原因となる物質はほとんど含まれていません。厳密には汗臭さの元は、皮膚の表面で汗がアカや皮脂などと混じり合い、皮膚の常在菌が増殖しニオイを帯びるようになります。
アポクリン腺から分泌される汗もベースは水ですが、脂質やタンパク質などニオイの元になる成分を含んでいます。アポクリン腺の多いワキの下が臭いやすいのはそのためです。(ワキの下にもエクリン腺はあります)ちなみにヒトのように全身で汗をかくウマの汗腺はアポクリン腺です。
濾過が間に合わない、大量の汗
汗の主成分は水分とお伝えしましたが、原料は血液です。汗腺は血液から血漿という液体を取り出して、汗をつくっています。血漿にはカリウムやナトリウム、マグネシウムなどのミネラルも含まれています。そのまま汗となって出てしまったら、体は大切なミネラルを失うことになりますが、なんと汗腺には水分だけを濾過(ろか)し、必要なミネラルを血管に戻す機能が備わっています。
とはいえ、つくり出さなければならない汗の量が多過ぎると濾過し切れないという状態も出てきます。水分のほかに余分な成分を含んでいると、蒸発もしにくくなり、体温調節の効率も悪くなります。体内のミネラル不足は慢性疲労や熱中症の原因にもなりかねません。だからといって汗をかかない生活が良いのかというと違います。汗腺の濾過機能は使わないと退化してしまうからです。
使えば高まる!汗腺の能力
運動をよくしている人の汗は、しない人の汗より水っぽいことが知られています。汗腺の濾過機能がしっかり働いて、ミネラルを体内に戻せているからです。汗をかく習慣があまりないと、汗腺の濾過機能が衰え、ミネラルも一緒に汗の中に混ざってしまいます。水分以外のものを含んだベタついた汗は、ニオイの発生にもつながってしまいます。
実際、汗腺の濾過機能は汗をかくほど高まるとされています。適度に汗をかくことで汗腺を鍛えるのが、サラサラの汗をかく秘訣です。エアコン漬けの生活で体調を壊す冷房病の別名は「能動汗腺衰退症」。体温の調節能力の低下を意味しています。
天然の保湿液
汗の水分は皮膚の表面に適度な湿り気を与えます。汗には尿素や乳酸など、保湿成分も含まれています。汗によって皮膚の表面がうるおっていると、その下の筋肉は柔らかく、しなやかになり肌のハリにも良い影響をもたらします。逆に、汗腺が退化すると皮膚に空洞ができやすくなってしまうため、肌のたるみにも繋がりかねません。
ただし、肌は弱酸性。汗がついて時間が経つとアルカリ性に傾き、細菌が繁殖しやすくなってしまいます。汗はかいた後のケアが大切というわけです。しかも体温調節や保湿に大切なのは「目に見えない汗(不感蒸泄)」。実際、汗は滴になる前からかいていて、見えない汗が体の冷却や保湿の役に立っています。滴になった汗は蒸発に時間がかかり、ニオイの発生にもつながります。
できるだけ“濡れたタオルやウェットシート”で拭き取ることをおすすめします。濡れたタオルやシートを使えば、皮膚に水分が残るので、水分により気加熱が放出され、体温を下げることができます。ニオイの元になる雑菌や皮脂も取ることができます。
制汗剤で汗を抑えることへの影響は?
拭き取ることに加えて、味方につけたいのが制汗デオドラント剤です。
主に3種類の有効成分で汗とニオイを軽減します。使うのは汗をかく前、汗を拭いた後が大前提です。使用部位もワキの下と足が基本。それでも「制汗剤は汗腺を塞ぐので、体温調節を妨げるのでは?」と心配する方がいますが、ワキ汗は体全体から出る汗のわずか1%程度です。脇に制汗剤を使っても体温調節のための発汗は、ほかの汗腺で十分に補えると考えるのが自然です。
制汗成分 | クロルヒドロキシアルミニウム、パラフェノールスルホン酸亜鉛、ミョウバンなど | 汗の出口をふさいだり、皮膚を収れんさせて、発汗そのものを抑えてニオイの元を断つ |
殺菌成分 | β-グリチルレチン酸、イソプロピルメチルフェノール、塩化ベンザルコニウムなど | 汗のニオイの原因になる皮膚の常在菌の働きを抑えたり、減少させたりする |
消臭成分 | 酸化亜鉛、緑茶乾留エキスなど | 発生したニオイの成分を中和や吸収で消臭 |
汗と上手にお付き合い
いかがでしたか?汗を毛嫌いしてしまうのは、働き者の汗に申し訳ない気持ちになったのではありませんか?汗は体温調整という私たちのすこやかな体に必要不可欠な働きだけではなく、うるおいやハリのある、つややかな美肌への「天然の保湿剤」としての大切な役割も担っているのです。
残暑でまだまだ暑さは続きます。環境省が発表している「暑さ指数」も参考にして、良い汗をかきながら、秋を迎えましょう。暑さ指数(WBGT)とは、「気温」「湿度」「日射・放射」「風」の要素をもとに算出された指標です。「暑さ指数28℃以上」で厳重警戒になり、熱中症リスクが高まります。ここでいう28℃は気温ではありませんので、ご注意を。暑さ指数はこちらからチェックできます。