調子が悪いのはコレのせい?「自然欠乏症」ってなに?

新緑から深緑へ。本来は過ごしやすい季節なはずなのに、なんとなく心身がすぐれない。健康診断で引っかかったわけでもなく、病院で診てもらっても「特に悪いところはありません」と言われたのに…。このような状態のときは、「自然が足りていない」のかもしれません。実は、人は栄養が足りないのと同じように自然が足りなくても調子をくずすことが判明しました。今回は「自然欠乏症」についてご紹介します。

 

「健康」と「病気ではない」の違いとは?

調子が悪いのはコレのせい?「自然欠乏症」ってなに?

私たちは「元気?」と聞かれたら「おかげさまで」とか「うん、元気」「ちょっと痛いところもあるけれど、元気よ」などという会話を交わします。挨拶代わりのようなやりとりですが、1948年に発効されたWHO保健憲章では、「健康とは肉体の状態が良く、心の状態も良く、社会性もあること」と定義されています。

しかし、ストレスと背中合わせの現代。憲章通りの健康をキープするのはそうたやすいことではありません。病気ではないけれど、なんとなくすぐれない状態の人が少なくはないのが現状でしょう。いまひとつやる気がわかない、イライラする、不安に苛まれがち、集中力がない、気分が落ち込む、楽しくない、体がだるい、良く眠れないなどなど…。思い当たることはありませんか?気力や体力が追いつかない感覚があっても不思議ではありません。もちろん原因は人それぞれ。実は、この不調は「自然の欠乏」が助長している可能性が大いにあるのです。

自然が足りないことでもたらされる「自然欠乏症」

英語では「ネイチャー・ディフィクト・ディスオーダー(Nature Deficit Disorder)」と表現され、欧米ではかなり前から取り上げられてきました。しかし、日本での認知が高まったのはここ10年ほど。2014年に、医師の山本竜隆先生が著書『自然欠乏症候群 ― 体と心のその「つらさ」、自然不足が原因です』の中でこの言葉を使ったことで知られるようになりました。山本先生は米国アリゾナ大学医学部で、統合医療プログラム「アソシエイツフェロー(Associate Fellow)」をアジアで初めて修了した方でもあり、日本統合医療学会理事なども務めていらっしゃいます。

山本先生は「体と心が辛いといった現代人特有の体調不良は、自然との触れ合いが足りないことに原因がある」と断言しています。情報として付け加えておくならば、遙か紀元前5世紀に生まれた現代医学の父、ヒポクラテスは「自然から離れるほど健康から遠ざかり、やがては病気になってしまう」ことを指摘していたそうです。「自然欠乏症」は正式な病名ではありませんが、自然から遠ざかった生活をすることによって、心身にもたらされる不調が大いにあることは明らかです。

ヒポクラテスが21世紀の今を見たら、どれほど驚愕することでしょう。近代化が進み、テクノロジーが発展し、化学物質に囲まれた環境で暮らす都会人は、明らかに「自然不足」気味です。実際、今の日本では大都市と地方都市を合わせると9割以上の人口が都市部に集中しています。しかも一日に触れる情報量は江戸時代の一年分とさえいわれています。

「自然に触れたい」は、人間に備わった本能

調子が悪いのはコレのせい?「自然欠乏症」ってなに?

便利な環境に身を置いて、不便や不足をあまり感じることはほとんどない現代の生活。一方でガーデニングやキャンプ、山登りや釣り、ベランダ菜園など、自然に触れる趣味は廃れることなく、むしろ人気を博し注目を浴びています。どれも日常の自然不足を補おうとして、無意識に自然を求めているあらわれともいえます。こういったことからも、人間の社会は生態系に組み込まれ、生態系と強く結びついていることを伺い知ることができます。

しかも、人類の歴史はまだ浅く、700万前頃からチンパンジーなどの類人猿から進化を始めたと考えられています。ホモ・サピエンスの出現は、20万年前です。歴史から紐解けば、現代のような人工的な生活がスタートしたのは、つい最近。ヒトになって99%以上自然の中で過ごしてきました。日の出・日の入りに合わせて行動し、土の上を歩き、化学物質を口にしたり、電磁波にさらされたりしない生活のほうが、本能的には合っているといえるのかもしれません。

「バイオフィリア」も同様です。「バイオ(bio)=生物・自然生命」+「フィリア(philia)=愛着」から成る造語ですが、人には自然や生物とのつながりを求める本能的欲求があるという概念を指す言葉です。

実際、自然の中で進化してきた人間は、自然の中にいるときが最も良い精神状態となるようつくられてきました。自然のすごいところは、過度にリラックスさせるわけでも、過度に堕落させるわけでもないところです。五感も研ぎ澄まされます。逆に自然から遠ざかるほど、五感は鈍化するとされています。注意力の散漫や倦怠感、脳疲労などにもつながります。

特効薬は、自然の中で過ごすリトリート

調子が悪いのはコレのせい?「自然欠乏症」ってなに?

リトリートとは、仕事や日常生活から離れた自然の豊かな場所で自分と向き合い、解放された時間を過ごすことです。

2011年の資料になりますが、全国35の森林を対象に420人の被験者のホルモンの分泌量などを計測した結果、ストレスホルモンとして知られる「コルチゾール」の分泌量は約12%減少し、緊張を高める交感神経の活動は約7%減少しています。一方でリラックスしているときに働く副交感神経の活動は、なんと約55%増加するといった結果が得られています。55%は大きい数値ですよね。

理想のリトリートは豊かな自然に恵まれた、リゾート地での滞在。ヨガや森林浴、温浴や瞑想を取り入れたリトリートプランを設けているホテルや施設も増えています。いつもと違う環境の中で五感が刺激され、セロトニンの分泌も促進され、メンタルが安定します。

自然の中に身を置けば、副交感神経が優位になりますから、結果、疲労回復や血圧の正常化、活性酸素の低減にもつながります。自然音(鳥のさえずり、波の音、木の葉のそよぎ、川の流れる音)には幅広い音域があり、倍音が豊かという特徴もあります。さらに自然に触れることで、ナチュラルキラー細胞(免疫細胞)が増加するともいわれています。もちろん脳の活力も回復。ビフォア&アフターの違いは歴然です。日数は少なくても2泊3日が推奨されています。

参考までに、山本竜隆先生も静岡県の富士山麓で2つのリトリート施設を運営。医師監修自然欠乏症候群改善プログラムを体験できます。
日月倶楽部: https://www.hitsuki-club.com
富士山靜養園:https://www.mt.fuji-seiyoen.com

日常でも自然を意識してリフレッシュ!

調子が悪いのはコレのせい?「自然欠乏症」ってなに?

ご紹介したように泊まりがけのリトリートは非常に魅力的ですが、仕事や家事で難しいのも事実。その場合は、ワンデイトリップや近所の自然が豊かな公園や樹木が茂った神社などへ行くのもアリです!リトリートほど大きな効果は得られないかもしれませんが、一日10分でも自然に触れることで小さな効果の積み重ねになります。自然は人間にとってないがしろにできない必要不可欠な栄養素です。ここで重要なのは「気が向いたとき」ではなく、「意識して積極的」にリフレッシュすること!

毎日の生活に自然から遠ざからないようにするポイントを挙げてみました。今日から始められるものばかりなのでぜひ、「意識して積極的」に取り入れてみてください。

自然から遠ざからない日常を「意識して積極的」に過ごすポイント

□遮光カーテンをやめて朝の光を取り入れる

太陽は偉大な自然。都市生活において私たちが最も身近に感じられる自然ともいえます。まずは季節に応じて異なる日の出・日の入りを意識しましょう。疲労回復が期待できます。さらにおすすめは早朝散歩。朝日を浴びながら10〜15分。寝つきが良くなり、睡眠の質も高まります。睡眠の質が高まることで、肌も活力が出てつややかに。

□外に出たら、できるだけ土や芝生の上を歩く

通勤や買い物も身近な自然を感じる機会になります。歩く時はできるだけ土や芝生の上を。木々に軽く触れてみることもおすすめです。木々の緑、花々、葉音、鳥のさえずり、雨音など些細なものでも視覚、嗅覚、聴覚に取り入れましょう。感性が育まれ、穏やかな表情とともに豊かな表現力で魅力も倍増です!

□ネオンや騒音や排気ガスを避け、静寂を大切にする

強過ぎる刺激によって、知らないうちに五感を麻痺させないためにも必要な行為です。静かで平和な気持ちになることで他者へも、そして自分自身へもやさしく接することができるようになります。

□ストレスを感じたらすぐに自然音を聞く

自然音には神経系の回復を早める効果があるとされています。スマートフォンからの音でも大丈夫です。「あっ、イライラしているかも?」と思ったら、一息入れながら自然音に耳を傾けましょう。眉間の表情じわも気にならなくなります。

□デジタルデトックス

デジタルデトックスには、脳機能の回復というメリットが期待できます。デジタルデバイスは使い過ぎると、「脳過労」状態になることが知られています。これは、脳の機能や判断力、意欲、集中力が低下し、もの忘れが激しくなるなどのさまざまな弊害が現れる状態です。スマートフォンを使い過ぎて、首が凝ると、耳鳴りやドライアイ、吐き気などの症状が付随する可能性もあります。さらに、血流が滞り、肌への悪影響も。健康と美容に思わぬダメージを与える「デジタル漬け」ですが、さらに「SNS疲れ」は多大な心理的ストレスを招きます。

まずは意識することからスタート

いかがでしたか?まずは自然とのつながりを意識することからスタートしましょう。「これなら取り入れられそう」と思うものを、なんでもいいので、今日から生活に取り入れてみてください。「気持ちが落ち着いている」「仕事に熱意と意欲が持てている」「集中できている」「活力を感じる」「新たなアイデアが浮かぶ」「表情がイキイキとしてきた」「不調について気に留めなくなった」などの変化があれば、自然欠乏症から抜け出せている証拠です。目覚めたら、朝日を浴びながらお散歩へ。心地よい気候で紅葉も美しくなる季節の到来です。お散歩も気持ちよくできそう、公園でランチもいいかも。体と心のすこやかさは美しさの偉大なベースです。ぜひ、過ごしやすい秋を自然のなかで満喫してくださいね。

参照:
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjh/66/4/66_4_651/_pdf/-char/ja

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