大人気の「グルテンフリー」、今さら聞けないメリット&意外な真実とは?

アメリカではスーパーに行くと、「オーガニック(organic)」や「オールナチュラル(all natural)」「遺伝子組み換え食品の不使用(non-GMO)」などと、よく目にする「グルテンフリー(gluten-free)」という言葉。日本でも耳にする機会が増えたことで、その意味を何となく理解している方も多いでしょう。「とりあえず健康そう」「ダイエットに効きそう」というイメージが先行している昨今ですが、実は一番本質を捉えられていない食習慣でもあります。世の中に溢れる「グルテンフリー」について、今さら聞けないメリットや流行の裏に隠された意外な事実など、“本当の”グルテンフリーについて、ご紹介していきます!

グルテンフリーとは何か?

まず「グルテンフリー」とは何でしょう?グルテンフリーの何がヘルシーだとされているのでしょうか?少し自問してみてください。「小麦粉を使った食品を食べない」ということは何となく頭に浮かんでも、体にとってどんなメリットがあるのか正確には答えにくいですよね。炭水化物抜きの食生活なら、糖質制限という容易な実施意図が想像できますが、グルテンフリーは、炭水化物抜きとは違います。どんな健康メリットがあるのか、パッと答えが出ない、実はこのざっくりとした不明瞭感が、意外にもグルテンフリーの“流行”の根幹に迫っていたりするのです。まずは、グルテンフリーとは何かという基本的な概念から紐解いていきましょう。

大人気の「グルテンフリー」、今さら聞けないメリット&意外な真実とは?

「グルテン」は小麦、大麦、ライ麦などに含まれるたんぱく質を指します。それらの材料を水でこねることで作られ、弾力や粘りがあるのが特徴。パンのもちもち感やうどんのコシはグルテンが元になっているといえます。その他にも、パスタ、ピザ、そうめん、お好み焼きなどの分かりやすい料理から、市販のカレールーや天ぷら、フライの衣、スイーツなど、グルテン商品は私たちの想像以上に多いのです。モノによっては醤油にもグルテンが含まれることがあります。それらの「グルテン」をまったく含まない食品、もしくはそういった食生活そのものが、グルテンフリーと呼ばれているのです。そのため日本人には欠かすことのできないお米や蕎麦は食べてもいいことになります。

グルテンが体調不良の引き金になる

では、グルテンフリーの食生活にするメリットはどこにあるのでしょうか?もともとこのグルテンフリーは、グルテンによって体調不良を引き起こす病気の治療の一環として取り入れられてきた食事療法です。このルーツからも、最近のスーパーフードのように、「栄養価が高くヘルシーで、ダイエット効果があるからみんなぜひ試してみよう!」といった種類の健康法ではないことが分かります。グルテンフリーを必要としている人が正しく実践するためには、まずこの根底から理解する必要があるのです。グルテンを原因とする体調不良を総称して、「グルテン関連障害」と呼び、以下の3つの種類が存在します。

① セリアック病

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基本的にグルテンをまったく受け付けない疾患で、治療はグルテンフリーの食事にすることのみだといわれています。グルテンが摂取されると、体が勝手に害のあるモノが侵入してきたと判断し、免疫反応として腸の粘膜の正常な機能を失わせてしまいます。消化の役割をする腸の機能が作用しなくなるため、消化不良や食欲不振はもちろん、腹痛、下痢、便秘、疲労、気分の不調(苛立ちや不安)などを招くとされています。

② 小麦アレルギー

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Christian Bertrand / Shutterstock.com

グルテンフリーが世の中に知られることになったきっかけの一つとして、テニスプレイヤーのジョコビッチ選手の著書が挙げられます。この本では、試合を棄権するほどの体調不良に悩まされることが多かった彼が、グルテンフリーの食生活に変えたことで、グランドスラムを制するほどの体質に改善されたと記されています。この輝かしいストーリーのおかげで、“魔法の体質改善法”とされたグルテンフリーが世界中で知られることになったのです。しかし、ここで重要なことは、著書でジョコビッチ選手は単なる体調不良ではなく、小麦と乳製品のアレルギーだったことも明かされています。

小麦アレルギーとは、小麦に含まれるたんぱく質にアレルギー反応が出るもので、湿疹や顔の腫れなど全身に不調が表れます。ジョコビッチ選手はこの小麦アレルギーに加え、乳製品のアレルギー検査にも陽性が出ていました。グルテンフリーの食事法に変更すれば、自ずと小麦も避けることになりますので、体調不良の改善は、理に適っているといえます。ジョコビッチ選手が小麦アレルギーだったからこそ、グルテンフリーの“魔法”が機能したことになるのです。

③ グルテン過敏症(不耐症)

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①にも②にも該当しないにも関わらず、グルテンが含まれた食品を摂取すると体調不良を起こしてしまう人たちは「グルテン過敏症」と分類され、この名前は2012年以降に病名として提唱されました。このグルテン過敏症は近年増加している体質で、グルテンを消化しにくく、それにより小腸が炎症を起こすため、必要な栄養素が吸収されないばかりか、不要な毒素が体内に取り込まれるなどして、体に不調を引き起こします。便秘や下痢などの消化機能の低下、頭痛、めまい、イライラ、関節痛、疲労感、脱力感、ADHD(多動性障害)、抑うつ症状など、軽度のものも心身の不調として報告されています。

グルテンフリーの食生活がこれほどまでに普及している背景には、このグルテン過敏症の人が増加傾向にあることが影響していると考えらます。セリアック病やアレルギーは、症状が比較的重めに出るため分かりやすいですが、グルテン過敏症の場合はその程度が幅広く、「少し体調が悪い気がする」という程度の反応が慢性的に継続している人も多いのです。そのため、わざわざ病院で検査することもないまま、周りが実践しているグルテンフリーの食生活に変えたら、劇的に体調が改善されたという結果が得られる場合もあるようです。

つまり、グルテンフリーが万人に効果のある“魔法”ではなく、不調だった人が上記3つのどれかに該当していたために、グルテンフリーという“治療”を取り入れたことで、体質が改善されたという見方もできるという認識を持つ医師は多いようです。

それでは、まったくグルテンへの反応を持たない健康な人が実践した場合、グルテンフリーの食生活からメリットを享受することはできるのでしょうか?

健康な人がグルテンフリーを実践するメリットとは?

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マイリー・サイラスやミランダー・カー、レディ・ガガなど、ハリウッドセレブの中にもグルテンフリーを実践している女性は多く、アメリカではグルテンフリーの商品を入手することは実に簡単です。グルテンフリー専門のレストランやカフェも次々に誕生しているほど。実際に2017年の市場規模は約66億ドルともいわれ、生活の一部になりつつあることが伺えますね。新しいヘルシー習慣として受け入れられているグルテンフリーですが、グルテン関連障害に分類されない人やもともと健康な人が実践しても効果のあるメソッドなのか、またダイエットとしての効果があるのか、そこが重要なポイントになってきます。

グルテンフリーの食生活を継続するということは、自然とパンや麺類などの炭水化物の一部を摂取しないことになり、同時に糖質制限にもなります。そのため、結果的に体重が落ちる可能性も十分に考えられます。また「グルテンフリーを継続する!」という目標に据えることで、食生活への意識が以前より高くなり、グルテン食品以外にもヘルシーなものを摂取するようになるなどの、付随的なヘルスコンシャスの高まりが影響することもあります。ダイエットは意識を変えることが重要ともいえますので、その点では大きな効果が期待できるのかもしれません。

しかし、市販されているグルテンフリーの代替品などを魔法の食べ物のように思い込んでしまうことには、注意が必要です。グルテンの代わりとなる米やジャガイモ粉、トウモロコシ粉などの摂取に関しては特別な制限が設けられてないため、代替品の選択によっては、グルテン食品以上に糖質を摂取している場合もあります。

大人気の「グルテンフリー」、今さら聞けないメリット&意外な真実とは?

グルテンフリー先進国といえるアメリカでは、市場に数多く出回るセリアック病やグルテン過敏症に悩む消費者のために、FDA(アメリカ食品医薬品局)が「グルテンが20ppm未満の食品をグルテンフリーとする」と定義し、2013年以降、基準を満たした食品のパッケージにグルテンフリーマークがつくようになりました。

しかし前述したように、グルテンの代替品として使用されるジャガイモ粉やトウモロコシ粉、米粉はグルテン食品よりも糖質が多い傾向にあります。つまり、グルテンはカットしていても、糖質はカットされていないわけです。さらに、グルテンスイーツには、砂糖やハチミツを通常よりも多めに使うことも少なくないそうです。そのため、安心のグルテンフリーマークの食品は、糖質制限やダイエットの観点から見れば完全にNG食品に該当してしまうことも大いにあります。なぜなら、そこに目的を置いていないからです。体がグルテンを受け付けない人のための食品であって、ダイエット食品と謳っているわけでないのです。グルテンフリーマークがついていることで、盲目的に代替品を摂取していると、以前よりも太ってしまったという状況にもなりかねません。逆にそういった代替品を含め、完全な食事制限をしてしまうと必要な栄養分が取り切れないリスクもあります。これは炭水化物抜きなどの糖質制限ダイエットも同様ですので、グルテンフリーだけに懸念される事項ではないでしょう。

上記のことからも、小麦アレルギーやグルテン過敏症、セリアック病など、グルテン食品の摂取によって明らかな体調不良がある人、または慢性的に感じる体調不良の原因がグルテン食品にある可能性がある人にとっては、グルテンフリーの食生活は極めて効果の高い食生活といえます。グルテン関連障害だとはっきり分からない人でも、体調不良を改善するために、2~3週間を目安に試してみる価値は十分にあるでしょう。しかし先述した理由で、ダイエットのみを目的にグルテンフリーを継続することには、警鐘を鳴らす医師も少なくないのが実情です。実際に2017年には、イギリスの権威ある学術誌において、「セリアック病などの関連障害ではない人に、グルテンフリーは推奨されない」というリサーチ結果も出されていました。

セリアック病を含む関連障害に該当する人は、実にごくわずかです(セリアック病は人口の約1%にも満たない国が多いようです)。しかし、割合が低いながらに、近年セリアック病やグルテンに対して非常に敏感な人が増加傾向にあるのもまた事実なのです。そのために、実際はそうでない人もグルテンフリーを実践・継続するに至っているのだともいえます。

グルテンフリーなどという言葉が生まれる遥か以前から、世界の食卓に並んできた小麦食品が、なぜ近代になって“悪者”になってしまったのでしょうか。一説には、近代になって“小麦に起きたある変化”が、アレルギーやセリアック病の人が増えてきた原因として考えられているようです。グルテンフリーを語るために、とても重要な小麦の分岐点について、ご紹介していきましょう。

小麦はいつ悪者になった?

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欧米ではパンを主食とする国は多く、日本でもうどんや麦は昔から食されています。それが近代に入り、「小麦は体に悪い」「グルテンはアレルギーになる」などと叫ばれるようになったのには、理由があるとされています。その一つが、1960年代から開始された化学肥料や農薬の大量投入と小麦の品種改良です。近代品種といわれる現在の小麦は、いわゆる半矮性(はんわいせい)小麦に分類され、背が低くて倒れにくい特徴を持ちます。そのため、大量の化学肥料にも負けず安定した収量を確保することが可能となりました。

この小麦の改良は、「緑の革命」と呼ばれる世界の農業革命の一つで、これにより急激な人口増加に対応できるだけの、農作物・穀物の大量生産、高収量が実現しました。特に主食となる小麦の安定生産の影響は強く、世界の食糧危機を救うばかりでなく、価格が下落したことによって貧困層への食糧供給も確保されたことになったのです。この功績により、小麦の品種改良など緑の革命に大きく貢献したとされるアメリカの農学者ノーマン・ボーローグは、ノーベル賞を受賞するに至りました。

大人気の「グルテンフリー」、今さら聞けないメリット&意外な真実とは?

このことだけ聞くと、めでたしめでだしのハッピーエンドのようですが、化学肥料・農薬の大量投入や小麦の品種改良は、小麦の性質にも大きな変化をもたらしてしまったというのが、一説による考えなのです。つまり、グルテンによるアレルギーや過敏症などがほとんどなかったとされる本来の“小麦”から、消化しにくく胃腸への負担も多い現在の“小麦らしきもの”へと過剰な品種改良が次々に行われてきたと主張する研究者がいるようです。それに加えて、「ポストハーベスト農薬」と呼ばれる、収穫後の農薬散布も問題視するリサーチも存在します。大量生産・大量消費される普段のパンなどに使用される小麦は、少なからず農薬が使用されていることが多いです。プラスして、輸入された小麦には、輸送中の腐敗や防虫対策としてポストハーベスト農薬が使われているといわれています。しかも、小麦は他の農作物と比較しても生活必需品に分類される重要な穀物のため、通常よりも厳重に農薬が散布されている場合もあるようです。日本では、このポストハーベスト農薬は輸入品に対しては必ず使用することが厚生労働省により定められています。

こうした背景と昨今のヘルシーブームが重なり、「小麦・グルテンは誰にとっても体に悪い、グルテンフリーはダイエットに効果的」という流れが出来上がってしまったという考え方もできます。体調不良が続く人は、グルテンフリーの食生活をトライしてみるのもいいかもしれませんし、それでもパンや麺類が好きな人は、オーガニックなどの材料にこだわった商品を適量で摂取するのも手かもしれません。

質の時代だからこそ、本質を見極めて

大人気の「グルテンフリー」、今さら聞けないメリット&意外な真実とは?

個人的には、“グルテンが悪いのではなく、悪いグルテンが体に悪い”という捉え方もグルテンとの付き合い方の一つだと感じています。以前ご紹介したグルテンフリーのパスタ教室の記事内でも、イタリア人の講師が同じようなことを口にしていたのが記憶に新しいです。確かにパスタやピザが国民食であるイタリアで、不健康な人や太っている人が多いかと聞かれればそうではありません。むしろ、小麦への愛情もこだわりも強いために、質のいいグルテンの摂取が自然と続いているのかもしれません。

今回、グルテンフリーの記事に関して、このような多角的な見方をできるようになったのも、料理教室での生きた学びがあったからです。どの国でも、“量の時代”は終わりを迎えつつあります。ヘルシーな選択が以前よりも容易になったからこそ、全部を排除してしまうのではなく、何が悪いのか何が良いのか本質を自分自身で見極め、質にこだわった生き方をしていきたいですね。

出典

https://www.health.harvard.edu/blog/going-gluten-free-just-because-heres-what-you-need-to-know-201302205916
https://www.huffingtonpost.com/quora/the-surprising-truth-abou_b_11889806.html
http://www.lifetime-weightloss.com/blog/2012/2/25/gluten-free-and-low-carb-are-not-the-same.html
https://www.verywellfit.com/certified-gluten-free-products-562767

この記事を書いたライター

Beauty Lifestyle Writer

東京でファッション誌の編集・ライターとして活動後、渡米。LAではセレクトショップのバイヤーに。妊娠、出産を機に退職した後はフリーランスのライターとして活動再開。Newスポットの探索、本屋巡り、図書館でお籠り、ハワイへの逃避行が大好き。娘の笑顔とアイスクリームさえあればとりあえず幸せな30代女子です。

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