いつでも、どこでも、誰にでもできるヨガ
「ヨガを健康のために生活に取り入れている」という方が増えてきた一方で「ヨガをやってみたいけど、体が硬いからつらそう…」という声もよく耳にするようになりました。ヨガといっても、さまざまな種類があります。今となっては、何十種類にもなったヨガ。「ハタヨガ」「パワーヨガ」「アシュタンガヨガ」「アイアンガーヨガ」「シバナンダヨガ」「アヌサラヨガ」と、名前を挙げ始めたらきりがありません。ここロサンゼルス(LA)では、ユニークなヨガも人気。ハンモックを使った「エアリアルヨガ」、ダンスとヨガをミックスした「ヒップホップヨガ」、DJが動きに合わせた音楽を選んだ「プレイリストヨガ」など、おしゃれでワークアウトにヨガを取り入れたようなスタイルがトレンドのようです。今回は、“最先端”のヨガではなく、いつでも、どこでも、誰でもできる“ヨガ”について、筆者の体験を踏まえながらご紹介していきます。
14年間で実践し続けている “ヨガ”とは?
私は今年でヨガのプラクティショナーとしては14年目になります。最初の5年は週2回、健康のためにヨガをする程度。その後4年はインドでシバナンダヨガ講師の資格をとったり、毎朝1〜2時間アシュタンガヨガの師のもとでアーサナの練習をしたり、インド哲学の勉強をしたり、ベジタリアン生活をしたりと、本格的なヨギの生活をしていました。子どもを産んでからの最近の5年は、以前ほど「ヨガのポーズ」の練習はしていないのですが、まだ毎日“ヨガ”を実践しています。ヨガのポーズをしなくても「“ヨガ”の実践をする」とは一体どういうことなのでしょうか?
“ヨガ”って一体なに?
「ヨガ」という言葉は、サンスクリット語「yujir yoge(ユジュという響き)」で、「つなぐ」という動詞から派生した言葉といわれています。歴史を遡ると紀元前2500年ともいわれていますが、その起源は不明なところも多いようです。何千年にもわたり、インドの宗教やインド哲学の学派などが、この「結合・つなぐ」ということが何なのか、どうしたらいいのか議論し、文献にし、実践し、鍛錬して、今もなお多くの人がその研究を続けています。心と体をつなぐ、現実と心の奥底にあるものをつなぐ、その見解は流派や学派によってもさまざまです。
紀元後4〜5世紀頃に書かれた『ヨーガスートラ』という文献の中で、7種類あるヨガの一つ、「ラージャヨガ」はさらに細かい8段階が記されています。こちらをほんの少しだけ紐解いてみましょう。
下から順番に練習を積み重ねていくことで、悟りの境地に辿り着くものです。実は、この全ての段階が“ヨガ”であり、“ヨガ”の実践とは「1の段階から8の段階まで全てを練習していく」ということなのです。訓練を重ねることで、体と心を一つにしていき、また現実の世界と悟りの世界をもつながっていくと考えられています。高尚な修行僧が座禅を組んだまま何にも飲まず食わずに修行を続けているという話をニュースなどで耳にしたことはありませんか?「そんなこと無理でしょう?」と思う方も多いですが、この修行僧たちこそ、鍛錬を重ねた結果、1の段階から7の段階までをクリアして、静かな心で瞑想をしている状態なのです。この状態こそ、先ほどお話しした“ヨガ”という言葉の由来であり、本来の意味である「つなぐ、結合する」ということだと解釈されています。
では、全8段階もあるのにもかかわらず、なぜ3の段階である「アーサナ(ポーズ)」だけが現代人に慣れ親しまれるようになったのでしょうか?
結論からいえば、ほかの7段階は、忙しく生きる現代人にとっては、現実離れし過ぎていると捉えられたのかもしれません。例えば「不殺生」といっても、人間は生き物を殺めなければ肉も食べられませんし、「不貧(貪らない)」といっても、「もっといい生活がしたい」「お金が欲しい」という、人間としてのさまざまな欲は、生活していく上で必要なものでもあります。ストレスの多い現代社会を生きているのに、自ら選んでさらなる「苦行」をするなんて、なかなかできることではありませんよね。
実は誰でも実践できる!体を動かさなくてもできるヨガ
それぞれの段階は、掘り下げていけばとても奥深く、全て実践するのが難しいかもしれません。でも、「非暴力」「嘘をつかないこと」「盗まないこと」などは、誰でも日常的に心掛けていることではないでしょうか?
2の段階にある「サントーシャ」は、日本でも「知足」という老子の言葉や禅の心得として知られ、同じ意味合いを持ちます。「足るを知る」とは、現状を受け入れ満足すること、感謝すること、欲張らないこと、つまり、自分が置かれている環境や人間関係または自分の能力など自分自身がすでに持っているものの価値を認めて、それに満ち足り有り難く思うための心得を意味します。
最近では「マインドフルネス」や「瞑想」などを気軽に生活に取り入れる方も増えてきました。目を閉じて深呼吸するだけでもいいのです。これは7の段階である「ディアナ」、心を落ち着つかせる練習の一部でもあります。「他人を傷つけないようにする」「環境に気を使う」「なるべく嘘はつかない」「今の自分や状況に満足する」…、このような心持ちで毎日の生活をすることは、体が硬くても、運動する時間がなくても実践できます。それぞれのヨガの段階を完璧にはできないからこそ、毎日一つでもできることを練習してみるのです。それこそが“ヨガ”の実践だと私は思っています。
さあ、始めてみましょう!
アーサナ(ヨガのポーズ)を毎日練習していた頃に比べると、仕事や育児、家事に追われてヨガがまったくできなかったり、疲れていて何もやる気がしなかったりという時があります。むしろ、そのような時こそ、私はヨガの8支則を思い出して、今自分自身ができるヨガを実践するように心掛けています。
できないことよりも、できていることに目を向けて感謝するように努めています。例えば、忙しいのに風邪も引かずに頑張っている自分自身の体を有り難く思ったり、寝る前にたった一つでもいいのでヨガの好きなポーズしたり、一日の中で嫌な気持ちになることがあっても一晩寝てサラリと流すようしたり。自分の気持ちに目を向けて正直に生きるようにする、そのようなわずかな心得がヨガの実践の一つだとすれば、今すぐにでも気軽に始められると思いませんか?日々の小さな心がけがヨガの練習でもあるのです。さあ、今日から“ヨガ”を始めてみませんか?