「ときどき菜食主義」のすすめ
ここロサンゼルス(LA)は菜食主義の人々にとって、とても過ごしやすい環境です。だいたいどこのレストランに行っても菜食主義のチョイスがあり、自然食のスーパーに行けば単なる「ベジタリアン」だけではなく、「ヴィーガン」「グルテンフリー」「ナッツフリー」「ソイフリー」とアレルギー対応商品も揃っています。そのため、ヴィーガンの私もアレルギーを持っている娘も苦労なく生活することができます。最近ではプラントベース(ホールフーディスト)というスタイルも人気。これまでもベジタリアンやヴィーガンについては紹介してきましたが、実際にヨガプラクティショナーでありヴィーガンでもある筆者から「ときどき菜食主義」になることのメリットをお伝えしていきます。
もはやトレンド?ホールフーズ・プラントベース
LAでも近頃よく見かけるようになったレストランに「ホールフーズ・プラントベース」を標榜するプラントベースカフェやプラントベースメキシカンレストランがたくさんあります。もはやトレンドだから、おしゃれだからと足繁く通う方もいるほど。ホールフーズ・プラントベースは、ヴィーガンと似ているのですが、より植物に近い状態で、最小限に加工された食品を食べるスタイルです。「肉を食べない」ということがポイントではなく、「野菜」「果物」「全粒穀物」「豆類」「種子」「ナッツ」など、なるべく未加工の植物を選び、できるだけ「畜産物」「砂糖」「小麦粉」「加工油」などの精製食品を避けて、可能な限り地元産の有機食品を選んで食べる食生活を指します。例えば、肉が入っていないだけのチーズピザや白砂糖たっぷりのアイスクリームなどはプラントベースとは呼びません。つまり、ホールフーズ・プラントベースとは、より食品の品質・栄養価にこだわった食べ方といえるかもしれません。
なぜ「菜食主義」になるの?
私がヴィーガンになったきっかけは、前回の記事でも少し触れたのですが、ヨガの実践を始めたからです。「菜食主義」になるということにも、人それぞれフィジカルな理由、メンタルな理由、環境のため、宗教的に食べることができないなどとさまざまな理由があります。そのいくつかの例として菜食主義になる理由について説明していきましょう。
①フィジカルな(健康的)理由
ヨガプラクティショナーにとって、菜食主義であることは、毎日のアーサナ(ポーズ)の練習と深く結びついています。菜食は消化も早く体が疲れにくいため、次の日のヨガの練習の邪魔になりません。「お腹を深くへこませるポーズ」「逆さまのポーズ」「ねじりのポーズ」などもあるため、基本的にアーサナの練習は空腹で行いますが、前日消化の悪いものを口にすると、老廃物が腸の中に残り効果的な練習ができないと考えられています。
また、ヨガをしない人にとっても、健康面での理由から菜食主義を選ぶ人は多いものです。焼肉でお腹いっぱい肉を食べすぎると、眠くなったり、次の日は朝から疲れていたりという経験はありませんか?肉などの動物性たんぱく質は消化するのに時間がかかり、体力を奪うといわれています。消化に時間を要するということは、腸の中に長い間老廃物が留まるということ。腸内の悪玉菌を優位にさせ、腸内で腐敗が起きやすく、ガスが発生しやすくなったり、発がん性物質が作られやすくなったりすると考えられています。ビタミン・ミネラルなど他の栄養素の吸収を妨げることにもつながります。
最近は、腸内細菌のバランスの良さが若さの秘訣と認識されています。腸内をキレイな状態にしておくことは、健康にもアンチエイジングにもつながるのです。そのような面で、消化の早い菜食は腸内を健康に保ち、若々しくあるためには理に適っているといえるでしょう。
②メンタルな(精神的)理由
ヨガの実践の1の段階に、アヒムサ(不殺生・非暴力)というのがあります。命あるものを殺めない、暴力を振るわないこと。それは、肉を食べないことで動物を殺めず、暴力を助長するような行いに賛同しないということでもあります。私がヴィーガンになったきっかけは、このヨガの1の段階の練習のためです。アヒムサの練習は、動物を殺生しないこと以外にも、心の中での威圧的な思考や言葉の暴力なども含まれます。他人、環境、物事に対して、思いやりを持って行動する、考える、傷つけないように努めること。つまり、ネガティブな気持ちを他人にも自分にも向けないということがアヒムサの実践なのです。
実際に、人間が肉を食べるために、必要以上の大量の動物が生産され殺生されています。成長ホルモン投与で早く大きく成長させて、餌代を最小限に抑え、なるべく安い肉を生産することが畜産業の現実と囁かれています。牛一頭も、豚一匹も、お母さんから生まれた大切な命。このことは次に説明する環境的理由にもつながってくるのですが、私たち、「人」中心の考えで、自然界の本来のバランスを崩してまで、むやみやたらと食べるべきではないと理解しています。口にするのであれば、必要な量だけ、感謝していただくことが大事ですよね。また、ヨガ的な考えでは、殺めた動物のエネルギーを、自分自身の体内に入れないというスピリチュアルな理由もあります。
③環境的な理由
数年前にハリウッドの大物セレブの一人、最近は環境問題に積極的に取り組んでいる俳優・映画プロデューサー・脚本家のレオナルド・ディカプリオ。彼が制作に携わったことでも話題になったドキュメンタリー映画『カウスピラシー』をご存知でしょうか?
食肉が環境に及ぼす衝撃の事実を提示しています。まだ見たことがない方のために少しだけ内容を説明しておきましょう。
・肉を生産するための家畜のメタンガス(家畜のオナラ)は全ての車の排気ガスよりも多い。
・全世界の温暖化の原因の半分は家畜とその副産物のガスによる。
・畜産牛1頭あたり2~5ac (1acは約4,046m²で畳2,488枚)の土地が使用される。
・米国では人の排泄物よりも130倍も多くの動物性排泄物が、食肉産業からは年間14億トンの排泄物が発生している。
・1ポンド(450g)の牛肉を生産するために2,500ガロン(9,463L)の水が必要。
・米国では水の消費の56%が家畜用の飼料作物の栽培に使用される。
要約すると、現在異常な量の家畜が生産されていて、家畜から出るメタンガスが車の排気ガスよりも多く、地球の温暖化に拍車をかけているという内容です。そして、その家畜を育てるための飼料生産のために大量の水を使用しています(人の飲料水用は5%、家畜を育てるのに55%!)。例えば、家庭で一回の食事に450gの肉を食べる場合、その肉の生産のためには9,463Lの水(浴槽約67杯分)が必要なのだとか。
反対に、肉の消費量が減れば、メタンガスの排出量を減らすことになり、すぐに目に見える環境への利益が生まれます。もちろん、水の節約やゴミを減らすといった取り組みも必要ではありますが、一番早く温暖化に歯止めをかけるのが現在のメタンガスの排出量を減らすことだと説いています。このドキュメンタリーを見ると環境のためにも肉を食べる回数を少なくしようかなという気持ちになります。
ヴィーガンになってから感じたベネフィット
美味しいから食事が待ち遠しい!
私の場合は、きっかけはヨガの練習からですが、そもそもベジタリアンのご飯が美味しかったから続けてこられたのかもしれません。インドのアシュラム(ヨガの修行のための住み込み寺のような場所)で1ヶ月を過ごしていた時、食事は全て菜食料理ですが、さすがは本場の国、菜食料理もさまざまなスパイスで味しく調理されていて、毎日の食事が楽しみでした。肉を口にしなくても毎日こんなに美味しいご飯が食べられるのなら、ベジタリアンの食事を続けてみようかなと思ったのがはじまりです。大好きなスイーツはローフードのデザートやローチョコレートを食べるようにしています。体にもいいモノなので、ストレスも罪悪感も感じません。
体が元気になる!
ヴィーガンになってから日中眠くなることがなくなったばかりか、慢性的な鼻詰まり、扁桃腺の炎症、子宮内膜症、時折発症するアトピー性皮膚炎に悩むことがなくなりました。滅多に風邪も引かなくなり体調も良好に。うれしいことに「肌がキレイ」と褒めていただくこともあります。
料理のバラエティも増え家族もすこやかに
何よりも助かったことが、娘が「肉」「牛乳」「卵」「大豆」のアレルギーなのですが、自分自身がヴィーガンの食事に慣れていたために、彼女の食事を作るのに苦労を感じないということ。「お子さんがアレルギーで大変ですね」とよく声を掛けられるのですが、普段の自分の食事から大豆を抜くだけだったので、さほど大変ではありませんでした。大豆を使わない代わりに、フムス(ひよこ豆のペーストのディップ)やレンズ豆のスープ、キヌアご飯など、低脂肪で高タンパクの料理のバラエティーも広がりました。
まずは、週1回から始めてみよう
理由はともあれ、まずは週1回の食事を菜食に切り替えるだけで、環境保護につながるのです。全世界の人が週1回だけ菜食にするだけでも、一体どれほどの命が救われ、水や土地を守り、温暖化を止めることにつながるでしょう。そして、週1回が簡単だったら、週末だけとか週2~3回は菜食にしてみるなど、生活のペースに合わせて食事を変えてみると体の調子もよくなりそうです。体の調子がいいとそれを続けてみたいと思うものですよね!「よし、菜食主義になる!」などと気負わずに、気軽に試してみてください。私も現在では、基本ヴィーガン、プラントベースですが、親戚の家族で集まる食事会などでは魚を頂くこともあります。家族での楽しい食事会に、自分の食事へのこだわりだけで雰囲気や調和を乱さないことも大事だと考えるからです。アレルギーの多い娘のために、オーガニックチキンのスープのだしを飲ませたりもしています。一番大事なことは、自分を含め、家族が楽しく元気で健康に過ごすことなので、フレキシブルに楽しんでいます。あなたも「ときどき菜食主義」をはじめてみませんか?